IBMはITに関わる様々な業種を手がけている老舗企業ですが、中核を為す部門であっても利益を出せないと判断したら容赦なく切り飛ばす、激しい舵取りをすることでも知られています。
IT業界では、昨日まで売れていたハードウェア製品が今日には中国で格安製品が発売されて売れなくなったり、今日儲かっているソフトウェア製品でも明日にはトレンドが変わって見向きもされなくなったりすることが日常茶飯事で起こります。
その中で生き残るためにはたとえ自社の主力製品であっても将来がないと判断したら切り捨てていく必要があります。儲からないテレビに固執して赤字を重ねる日本の家電メーカーには真似できない大胆な変革ができる点は、IBMが長年生き残ってきた秘訣と言えるかもしれません。
そんなIBMの変遷をまとめた記事が出ています。
12 different companies IBM has been
これまでどんな製品を販売し、また撤退してきたか、少し覗いてみましょう。
タビュレーティングマシン
いわゆるパンチカードシステムですね。ハーマン・ホレリスが発明し、1890年頃から利用されるようになりました。
そのホレリスが興した会社を含む当時のコンピュータ関連の企業3社が合併して、今のIBMの母体が生まれます。IBMの設立自体は1911年。ITの本当に黎明期から続いている企業ということになります。
IBMの主力製品であったタビュレーティングマシンですが、当然ながら時代の流れと共に使われることがなくなり、1984年には販売が終了されています。
オフィス用マシン
1930年頃からは銀行向けの小切手処理用の機器を手がけるようになります。
売りだされたのはちょうど世界恐慌があった時期だそうですが、順調に売上を確保できていたそうです。
タイプライター
1933年にタイプライター企業を買収し、その後、電動タイプライターを開発・販売しています。
高いシェアを確保していましたが、やはり時代の流れの中で売上は先細りしていき、1990年には事業を売却しています。
防衛システム
第二次世界大戦が勃発すると、軍事関連の製品を手がけるようになります。
銃や爆撃照準器、エンジンの部品などを製造を手がけ、またIBMのタビュレーティングマシンは原子爆弾の開発にも利用されていたそうです。
メインフレーム
IBMと言えばこれですね。1960年台中盤から1980年台にかけてメインフレーム市場を独占します。
この時期の最大の敵は独占禁止法で、多くの訴訟が起こされ体力を削られるものの、メインフレームの市場を占め続ける状況が続きます。
但しこの成功の裏で、普及しつつあったパーソナルコンピュータへの参入には乗り遅れています。
パーソナルコンピュータ
PCにも参入しますが、こちらは既にMicrosoftやIntelに先行を許してしまっていた為、いくつかの成功した製品は残すもののメインフレーム時代ほどの独占的なシェアは残せずに終わります。
メインフレームの時代が終わったことに伴い1992年に巨額損失を出して以降、ハードからソフトへの舵取りを始め、徐々にPC産業からも撤退を始めます。
2003年にはHDD事業が東芝に、2005年にはPC事業部門をLenovoに売却され、後述のように半導体事業からも2014年に撤退しています。
半導体
ハードウェア製造の中核とも言える事業であり、IBMが古くから力を入れてきた半導体部門ですが、2014年に売却されています。
といっても完全に手を引くわけではなく、工場や不採算に陥っている部門を切り離した上で、半導体研究に対する費用は今後も計上し続けるという方針のようです。
ダウンサイジングの為に中枢技術まで切り離してしまい、OEM頼りで自社でプロダクトを持つことが難しくなるという例はよく見かけられます。そうした状況にはならないよう必要な投資は継続する方針なのでしょう。
その他
1990年以降はハードの開発からソフトとサービスにシフトしていきます。その過程でエンタープライズソフトウェア(WebSphereやLotusから買収したNotesなど)の製造・販売を行ったり、DB2などのデータベースシステムを開発。コンサルタント部門も強化をしています。
そうしたシフトの介もあって2010年台に入っても最高益を出すなど好調な業績を維持するも、2015年には業績不振から最大規模のレイオフを計画。ワトソンを代表する人工知能プロダクトへ注力する方向で再度舵取りをしています。
こうやってIBMの歴史を見ていくと、ITの歴史を追っているような気分になりますね。
成功した事業がどんどん時代遅れになっていく中で、100年以上に渡ってIT企業の中で上位の売上を保っているあたりは、1つの事業に特化して成功している企業を見るよりも参考になる点は多いかもしれません。