2015年03月15日

電王戦FINAL 第1局は斎藤慎太郎五段が勝利

今日は英語ではなく日本のニュース。

昨日、プロ棋士将棋ソフトが戦う電王戦の本年度一戦目が開催されました。

一昨年はプロ棋士から見て1勝3敗1分、昨年は1勝4敗と分の悪い戦いが続いていますが、今年は若手の精鋭を揃えて万全の準備で挑んでいます。

私のような仕事で機械学習を使っている将棋ファンにとっては、非常に気になる大会です。

今回の将棋ソフトについて

今回も過去2年と同様、5つのソフトがエントリーされています。ソフトの種類によって強さはかなり変わります。特に副将のPonanza、大将のAWAKEは一歩抜けた強さがあるとプロの間でも認知されています。

AWAKEの作者である巨瀬さんは元奨励会員(プロ棋士の登竜門的な組織でエリートしか入会できない)、Ponanzaの山本さんも24でレート2400(アマチュアの中ではかなり強いレベル)を誇るなど、実は強いソフトを作っている人は将棋も強いというところは興味深いです。

ビジネスに対する理解がなくて機械学習が使えるか、という話はよくされることがありますが、将棋ソフトの開発者を掘り下げることでそうした問への1つの答えが浮かび上がってくるかもしれません。

コンピュータ将棋は人間と比べれば非常にたくさんの手を先読みするのでミスが少ないと言われていますが、それでも序盤、中盤に大きなミスをすることがしばしばあります。

先日行われたコンピュータ将棋に勝ったら100万円を賞金としてもらえる企画では、コンピュータがミスをしやすい局面を分析したアマチュアの方が、それを利用して見事に勝利しています。

序盤、中盤で出るミスをうまく突けばプロ棋士が有利になりますし、そこで大きな差を作らず中盤、終盤の叩き合いになればソフトの方が有利というのが下馬評です。

Aperyの四間飛車で始まる

今回は将棋ソフトのAperyが四間飛車という戦術を選択しました。昔からあるオーソドックスな戦法で、昭和の大名人、大山十五世名人も多用していた戦法です。

一般的な四間飛車は現在では対策が定跡化されてしまっていて、普通に進行すれば不利になることが多いとされる戦法です。特に穴熊という固い囲い(防御の為の戦法)で防御力を上げて、相手の美濃(四間飛車でよく使われる囲い。固いけど穴熊ほどではない)との防御力の違いで押し切るのは定番の戦い方です。

ところがコンピュータは穴熊を恐れないという特徴があります。人間にとっては固くて攻めに専念できるというメリットがある囲いなのですが、攻防組み合わせた複雑な局面でも苦にしないコンピュータには手数ほどメリットはないのかもしれません。

対戦相手の斎藤五段は今回は穴熊には組まず、積極的に攻めに出ます。コンピュータは中盤・終盤にかけての拮抗した状態で力を発揮します。守りを固めてゆっくりとした将棋にするより、素早く攻めて中盤・終盤を短くすることで、コンピュータが得意の局面を作らないようにするという作戦ではないかと思われます。

斎藤慎太郎五段

Aperyと対戦する斎藤五段は若干21歳。18歳でプロ入りしてすぐに頭角を表し、プロの強豪たちとの対戦の中で6割6分を超える勝率を残しています。これは最近プロ入りした棋士の中では、昨年王位戦で活躍したチダショーこと千田翔太五段に次ぐ高勝率です。

将棋には持ち時間が短い将棋(早指し)と、長い将棋がありますが、斎藤五段はどちらかというと長い将棋の方が得意だそうです。確かに順位戦(持ち時間6時間。タイトル戦を除くと最長の持ち時間)では毎年好成績を残しています。

電王戦は持ち時間5時間と順位戦より1時間少なく、チェスクロックという普段の将棋よりも早く時間が消費される方式なので、実際にはマイナス2時間くらいの体感になりますが、それでもNHK杯(持ち時間10分+考慮時間10分)のような早指しよりはずっと持ち時間は長いので、力が発揮しやすい持ち時間と言えるのではないでしょうか。

斎藤五段の勝利

対局は斎藤五段が積極的に踏み込み、Aperyも前に出て、お互いあまり王様の防御を固めないまま激しい戦いに突入しました。

王様の防御を固めていないとちょっとしたミスであっさりと詰んでしまいます。私のような素人はけして指せないような(例えば後手を持ったとしたらとりあえず片美濃だけでも作っとかないと落ち着かない気分になる)、プロらしい展開が続きます。

中盤でAperyは相手の飛車に攻めて来いと言い放つような、少し無茶な前進をします。それに対して斎藤五段も応戦。

対局を見守っているプロの間では「斎藤五段の方が良さそうだけど、コンピュータはこういう局面でも良い勝負にしてしまうからな」と過去の苦い思いも含めて慎重な意見も出ていました。

しかしどうやらコンピュータの豪腕を持ってしても覆せるような状況ではなかったらしく、斎藤五段がじりじりとリードを広げ、最後はきっちりとAperyの王様を仕留めました。

早いタイミングでリードを奪い、そこからきっちりと勝ちきるという対コンピュータ将棋のお手本のような指し回しでした。

第2局目以降

第1局はプロ棋士の勝利で終わりましたが、電王戦は5局まで組まれています。

第2局は来週の土曜日、3月21日に開催されます。対局者は永瀬拓矢六段。一昨年、羽生さんに連勝したのが印象的な22歳の若手棋士で、新人王も獲得し各棋戦でも好成績を挙げています。ただ、なぜか順位戦の結果がいつも芳しくない不思議な棋士です。新人王を持っているけど順位戦で上がれないというと、一昨年の電王戦阿部光瑠五段を思い出しますね。来年はそろそろ2人とも昇級してくれるのではないかと期待してます。

対戦するソフトはSelene。学習には強化学習(Reinforcement Learning)を使っているそうです。

強化学習というのは成功や失敗から学んでいく手法です。Bonanzaなどの他のソフトが、たくさんのデータをまとめて読み込んで統計的に分析しているのに対して、強化学習では自分でトライして学んでいきます。

最近話題になった、Googleが発表したゲームのプレイを学習する人工知能も、強化学習を使って失敗から学びプレイ能力を上げていく仕組みになっていますね。

Seleneはたくさんの失敗を繰り返す中で、棒銀、腰掛銀、美濃囲いなどの将棋でよく使われている戦法を、自分の力で習得することに成功したそうです。ただ、将棋は指せる手のパターン数があまりに多く、完全に強化学習のみで強くなるのは現状では限度があるそうで、今回エントリーしているソフトはプロの棋譜も利用しているそうです。

電王戦以外の将棋スケジュール

電王戦以外にも話題の将棋の対局は行われています。

今は王将戦というタイトル戦が佳境で、3月19日に開かれる第6戦で渡辺二冠の防衛が決まるか、というところまで来ています。こちらはニコ生でも放送されますので、電王戦で将棋に興味を持ったという方は、プロ同士、人間同士の闘いを是非ご覧ください。

王将戦は将棋以外にも、対局の後にスポニチ(メインスポンサー)に罰ゲーム写真と呼ばれる写真が掲載されることでも人気です。名棋士たちがトキのかぶりものをさせられたり、シェフのコスプレをさせられたり、砂浜で将棋をさせられたりと、シュールな写真でファンたちを魅了しています。

NHKで放送されているNHK杯テレビ将棋トーナメントは、来週、3月22日が決勝戦です。永世名人という将棋界でもっとも権威のある称号を持ちながら誰より腰が低いことで知られる森内九段と、飲み過ぎたせいで行方不明になった回数は数知れない行方(なめかた)八段の対局になります。NHK杯は持ち時間が短いので電王戦とは違ったスピーディな戦いが見られます。

名人戦プレーオフもありますね。名人に挑戦する為のリーグ戦で同点になった4人の棋士がプレーオフでぶつかります。その最終戦が行われるのが3月16日。ニコ生でも放送されます。対戦するのは振り飛車党の希望、久保九段と、NHK杯決勝にも勝ち上がっている行方八段が対局します。勝った方が羽生名人との名人戦に挑みます。

この他にも王位戦の挑戦者を決める王位リーグや、竜王戦、棋聖戦の予選も行われています。個人的には棋聖戦の右の山(康光九段、稲葉七段、豊島七段、三浦九段が勝ちあがり中)に注目しています。

posted by newsit at 07:00| machine_learning